【占い師も楽じゃない】
ベルセット通り。その賑やかな所に一軒、なんとも不思議な感じのする店があった。
水晶の周りにいくつかの星が散りばまれた絵が描かれた看板。

その上に「ミスト・フォーチュン」と書いてあった。


「…あの、それでどうなんでしょうか？」
困った顔の男がソワソワしながらキラキラ光る水晶玉を覗き込む。
「いい結果ではないのは確かだよ。」
男の向かい側、小柄な少年が大きな金色の瞳で水晶玉の中の何かを眺めていた。
「や、やっぱりそうなんですね…。」
「女難の相。スゴイのが降りかかるね。」
少年はうっすら笑いを浮かべて男のほうに顔を向けた。
「解決方法ってないです…か？」
「今すぐ急いで家に引きこもった方がいいと思うね。2日間、誰が来てもドアは開けちゃダメ。」
「じゃ、じゃあ、早く帰らなければぁっ！！」
ポイッとお金を少年に投げよこし、男はあわて店を出て行った。

「…ふぅ～…。」
小さな溜息を少年は漏らした。
彼の名はサウスミスト。大きな帽子にぶかぶかした服装をしていた。
本職は占い。身形は少年ではあったが、実年齢不詳、名前も実名なのかも定かではない。
存在全てが謎に包まれた人物である。

ギ・ギィィー…軋んだドアの開く音がした。次の来客だ。

「なっはは～♪ 儲かってまっか～？」
赤毛を頭の上に束ね、東洋の服装をした男がひょっこり入ってきた。
「タスキサマさん…。」
タスキサマと呼ばれた東洋の男はニカッっと白い歯を見せて笑った。
「なぁなぁ、今さっきオモロイの見たん～。
血相変えたオッサンがたっくさんの女に袋叩きやでぇ。ご愁傷様、ポックリ。」
タスキサマは胸に十字を切って肩をすくめた。
「やっぱり間に合わなかったんだ。分かってたけどね。」
サウスミストは目だけで笑っていた。
「お？なんや、おっさんここ来てたんかいな。」
「あんなの当然の報いだよ。」
その言葉にタスキサマは首を傾げた。
「浮気だよ。」
サウスミストはぼそっと言った。
「あぁー、なーるなる♪」
「それで、タスキサマさんはどんなご用件？」
「むふふふー♪」
タスキサマの不適な笑みにサウスミストは眉をしかめた。
「実はなぁ～、サウスはんにお願いがあってん。」
この声のトーンは金絡みの時の言い回しだ。
「今回のなぁ～、宝クジ、どぉーしても1等当てなあかんねん。」
やっぱり！と、サウスミストは苦笑した。
「あのねタスキサマさん。僕はそういう卑怯な事をする為に占いやってるんじゃないんだけど。」
するとタスキサマはサウスミストの目の前に両手をパッと見せた。
「…なんですか？僕、手相占いは専門外なんですけど。」
「５：５でどや？」
「嫌です。」
サウスミストは即答で答えた。
タスキサマは両手をひらひらさせた。
「３：７。」
「お断りします。」
「いけずぅ～。」
二人が成立など叶わない交渉をあれこれ言い合っていた時だった。

ギギィッバァアン！！
「うををををををーーーーーーぉぉぅぅッ！！！」
ドアが壊れまいかという勢いで開き、奇声を上げる男が飛び込んできた。
その勢いのまま店の中を駆けずり回っている。
髪を掻き毟り、また奇声を上げる。
「占い師ぃぃっ！！！」
「うっ！？」
サウスミストはいきなり胸倉をむん摑まれた。
奇声を上げる男、褐色肌で額に一角の角を生やしている。
その男の眼鏡がギラリと鈍く光る。
「ば、…バサ…ラ…さん…！？」
「おい、バサラはん！癇癪起して何やの？やめぃや！！」
タスキサマはバサラの手からサウスミストを救い出した。
「フゥゥウゥゥ…ッ！！！」
バサラの目は真っ赤に充血している。
「落ち着け、落ち着け、ドウドウドウ。」
タスキサマは興奮しているバサラの肩をポンポン叩いてなだめた。
「はぁ、はぁ、…占い師ぃ……。」
「な、なんでしょう…？」
呆気にとられているサウスミストはハッと我に返った。
「探してくれぇぇッ！オミが、オミがっ！」
「オミさん？妹さんがどうしたんですか？」
「最近、オミの帰りが遅いんだぁ！！」
「は？」
タスキサマとサウスミストは同時に首を傾げた。
「いつもは配達・買出しに３時間もかからないのにッッ
ここ最近はッ　ここ最近はッ　半日もぉぉっっ！！！」
今度は号泣し始めた。
「なんやん。帰って来ない訳じゃないやろに。」
「きっと男だ！オミは男の家に行っているんだぁぁあッ！！」
サウスミストはオミの帰りが遅い理由を知っていた。
配達先のお爺さんの介護で遅くなっているのだ。
だがあえて言わなかった。
いつもはボケッとしているバサラだが、妹の事となると目の色が変わる。
きっと事情を話したら、無理矢理にでも連れて帰るだろう。
相手が老人だろうともだ。
「きっとアレや。こんなシスコン馬鹿に愛想尽かしたんやな。我慢の限界やったんや。可愛そうに。
っと、そないな事より、サウスはん。クジさえドドンと当たりゃな、こないな店なんぞデッカイ館に大変身やで？
今より客なんぞあふれるほどに来よるねんて♪」
ポンポンとサウスミストの頭を子供をあやすように軽く叩いている。
だがタスキサマのその言葉にバサラは口の端をピクリと痙攣させた。
「そんな事ぉぉ！！？
……そーか。分かったぞ。お前か。可愛い可愛いオミを連れ込んでるのはぁあぁ…！！？」
「どないしてそないな解釈するかダァホォ！！！」
「オミをどこへ隠したんだぁーーーっ！！？」
「人の話聞かんかいツノメガネ！！！」
「こんなポニーヘッドが義兄だなんて嫌だぁぁぁあぁっ！！」
口喧嘩では止まらず乱闘が始まってしまった。

「営業妨害だ。他所でやってくれよ…。」
サウスミストは深いため息をつくのでした。

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